(3)振動板素材について考えてみる。その1「634EARSの音を出すための条件」(The”634EARS for the Best Earphones”Project.)

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今回はダイナミック型ドライバーの振動板の素材について考えてみましょう。

各メーカーや開発者によって求める条件は色々変わってくるとは思いますが、ここではあくまで634EARSとして振動板に何を理想としているかということについて考えてみたいと思います。

1) ヤング率、密度、内部損失
2) 音をどれだけ調整できるか
3) 音の調整幅

1) ヤング率、密度、内部損失

一般的に振動板の素材には「内部損失の大きさ」と「密度の小ささ」と「高いヤング率」「高い比弾性率」が求められることが多いです。なんのこっちゃ?という方が多いと思うので以下で簡単に説明します。

内部損失については内部損失が大きいほど振動が吸収され減衰する速度が速くなります。内部損失が小さいとその逆です。

密度は言葉の通りなのでわかりますね。

ヤング率は縦弾性係数のことです。「弾性」とはその素材に外から力を加えたのちに元の形状に戻る性質のことで、ヤング率が大きいほど剛性が高い素材ということになり、変形し難い素材ということになります。剛性というのがポイントです。硬さとはまた違います。割れにくいようなイメージです。

634EARSでは筐体素材に木材を使うことが多いですが、硬い木材はヤング率が高く、柔軟性がありしなる木材はヤング率が低いということになります。

比弾性率は「弾性率/密度」で求められる数値で、この数値が高いほど音の伝播速度が早いです。つまりその素材の音が伝わる速度が速くなります。

これらが一般的に振動板に求められますが、実際には必ずしもそういったものだけではなく内部損失が小さい金属素材の振動板もありますし、比弾性率の小さい紙素材などが使われることもありますので、一概に振動板に求められる理想とされる文頭の条件が必ずしもベストとは言い難いと思います。

ここら辺はおそらくこれだけで数ページの論文のようなものが書けてしまうくらい奥が深いので、ここでは一般的にこういうものが求められるという認識とそれぞれの求められる項目がどんなものかを知っておけば大丈夫だと思います。

2) 音をどれだけ調整できるか

振動板として一般的に求めれるものは先ほど説明しましたが、次は「634EARSとして」最も重要な条件についてお話ししたいと思います。

634EARSは仕入れたD型ドライバーをそのまま使うことはまずありません、D型ドライバ―そのものの出音をチューニングする必要があります。

完成されたダイナミック型ドライバーをただ筐体に詰め込むだけだと、筐体がオリジナル設計であってもそれはオリジナル性が少ないです。

もちろん筐体の設計や素材だけでも大きく音が変わりますが、肝心のD型ドライバ―でも音をチューニングできたほうが音の調整幅が大きく、よりオリジナル性が高く、求める音を再現する確立が高くなります。

しかし、D型ドライバ―のなかには音の調整幅が少ないものもあります。

そういったものはD型ドライバ―で音をどんなに調整してもある一定の範囲内でしかチューニングできず音の変化率は低いです。

なので、634EARSとしてはD型ドライバーのチューニングで音の調整幅の大きいものが理想です。これは先ほど振動板素材として求められる一般的な理想の条件とは別に634EARSが求める条件です。

3) 音の調整幅

では、どんなものが音の調整幅があるのでしょうか。

D型ドライバ―は外(後ろ側)から空気を取り込み振動板の動きが調整されます。

空気の取り込み量が大きいと振動板は大きく動きますし、空気の取り込み量が小さいと振動板は小さく動きます。

振動板の動きが大きい場合、音は太くパワフルで音量も大きくダイナミックなメリハリの効いた音になりやすいです。

振動板の動きが小さい場合、ダイナミックさは得られにくいのですが音がスマートになり音が細かく解像感のある音になりやすいです。

どちらが良いというわけではなく、振動板の動きの大きさによって音はかなりかわるということです。

また、振動板は簡易的に例えるならドラムや太鼓のヘッド(皮)と似ています。 このヘッドの厚みや硬さや張り具合の強さによって音が変わります。

また同じヘッドの厚みや硬さや張り具合だったとしても、太鼓やドラムのシェルのヤング率次第でそのヘッドの動きの幅は変わります。

これはまたリア筐体素材の時に詳しく解説しますが、下の図のようなことをイメージすると良いと思います。

シェル素材のヤング率が低く柔軟でしなりやすい素材であればヘッドは大きく動きます。先ほどの空気の取り込み量が大きい場合の振動板と似たような動きになります。

シェル素材のヤング率が高く硬く変形しにくい素材であればヘッドは小さく動きます。先ほどの空気の取り込み量が小さい場合の振動板と似たような動きになります。

つまりD型ドライバ―の空気の取り込み量の調整や、リア筐体の素材によって振動板の動きを変えて、振動板からの出音を調整することができるわけです。

ですが、振動板が硬すぎる変形しにくい素材の場合、反応の良い小さな動きはできますが、どんなに空気の取り込み量を増やしたりリア筐体に柔軟性のある素材を選んでも振動板の動きはあまり変わりません。

また振動板の厚みがある場合なども同じことが言えます。

634EARSとしては音の調整幅が大きいほうがより狙った音にチューニングしやすいので、そういった振動板が理想です。

ただし、音響素材として高音質なものを求める場合に「内部損失の大きさ」「密度の小ささ」「高いヤング率」「高い比弾性率」も必要な条件であることは間違いないので、そのなかで調整幅のあるものを選んでいくというとても難しい(なぜならそれらは相反するから)ことが求められます。

ちょっと長くなりましたので、振動板の素材についての続きはまた次の記事にて。

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