(7)フロント筐体について考えてみよう。その3「チタニウムとフロント筐体」」(The”634EARS for the Best Earphones”Project.)

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今回は前回の「フロント筐体の素材別の特徴」の続きとして、「チタニウムとフロント筐体」についてお話いたします。

まだ前回の投稿を見ていない方はまずはそちらをご覧ください。

今回の内容は以下の通りです。

1) チタニウムのメリット
2) チタニウムのデメリット

1)チタニウムのメリット

チタニウムにはいくつかの優れた特性があります。まず、チタニウムは金属にしては比較的軽量であり、非常に硬い素材です。実際、真鍮やステンレスの約半分の重さでありながら、アルミよりも重い特性を持っています。

さらに、チタニウムは振動の内部損失が非常に少ないため、音の伝搬速度が非常に速いのが特徴です。この特性により、チタニウムから発せられる音は非常にクリアで歪みが少なく、特に高音域の再生に優れています。

イヤホンの場合、フロント筐体では振動をロスなく伝えることとD型ドライバーの振動を抑えることの両方が求められます。チタニウムは内部減衰が小さく、音の伝搬速度が速いため、金属の中でも特に「振動をロスなく伝えること」の要件を満たす素材と言えます。

さらに、別の利点として、チタニウムは金属アレルギーを引き起こしにくいという特性があります。チタンは空気中の酸素と反応して酸化皮膜を形成し、金属イオンが汗などに溶け出すことがありません。そのため、金属アレルギーのリスクが低いとされています。

・内部損失が少ない
・音の伝搬速度が速い
・歪みが少なくクリアな音質
・高音域の再生に優れる
・金属アレルギーを起こしにくい

イヤホンは音(振動)を伝える道具とも言えますので、振動をロスなく伝えることができるチタニウムのメリットは非常に大きいと言えます。

2)チタニウムのデメリット

チタニウムは音響的に非常に優れた素材ですが、いくつかの弱点も存在します。

まず、内部損失が少ないため、チタニウムはD型ドライバーの振動を抑える能力に関しては、他の素材(例:ステンレスや真鍮)に比べてあまり優れていないと言えます。

LOAKにはS(ステンレス)とT(チタニウム)の両モデルがありますが、同じチューニングをしても低音がしっかりと出るのはSモデルの方です。これは、振動をしっかりと素材で抑えることができるためです(共振周波数の影響もありますが)。

また、音質に関連する以外の面でもデメリットがあります。まず、チタニウムは素材として非常に高価です。さらに、硬度が非常に高いため、加工が難しいという特性もあります。そのため、生産コストが高くなる傾向にあります。

ただし、最近の3Dプリンター技術の進歩により、コストや加工の面ではかなり変化が起きています。しかし、切削と3Dプリントでは素材の比重や硬度に違いがあり、この点については別の機会に詳しく解説したいと思います。

・D型ドライバーの振動を抑えるのに適さない
・振動抑制の関係で低音の再生に不向き
・高コスト
・難加工性


今回は、フロント筐体として使用する場合のチタニウムのメリットとデメリットについて考えてみました。ただし、リア筐体として使用する場合はメリットとデメリットが異なる可能性がありますので、その点には注意が必要です。

もちろん、チタニウム以外にも希少素材を含めて、より適した素材があるかもしれません。しかし、一般的には、一定の数量をまとめて現実的な価格で正確に加工するという観点から考えると、選択肢はかなり限られてきます。

メリットとデメリットを考慮し、私は現時点ではフロント筐体にチタニウムを採用することを検討しています。

ただし、チタニウムを単に素材としてフロント筐体に加工して使用するだけでは、デメリットが音質面に大きな影響を与える可能性があります。

そのため、次回はチタニウムをフロント筐体として使用するために試行錯誤し、問題解決の対策などを解説したいと考えています。そこでは、音質面におけるデメリットの解消方法などについて詳しく取り上げます。

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