今回は前回の「チタニウムとフロント筐体」の続きとして、「チタニウムの弱点を補うには」についてお話いたします。
まだ前回の投稿を見ていない方はまずはそちらをご覧ください。
今回の内容は以下の通りです。
1) チタニウムの弱点を補うには?
2) D型ドライバーの振動を抑える(その1)
3) D型ドライバーの振動を抑える(その2
1) チタニウムの弱点を補うには?
チタニウムをフロント筐体に使用する際のデメリットは、次のようなものです:
・D型ドライバーの振動を抑えるのには適していない。
・振動抑制のため、低音の再生に向いていない。
・高コスト。
・加工が難しい。
前回お話ししたように、これらの弱点を克服するために、イヤホンの音作りに関連する部分として、以下の2つの問題に対処する必要があります:
「D型ドライバーの振動を抑えるのに適さない」
「振動抑制の関係で低音の再生に不向き」
最高のイヤホンを実現するために、これらの弱点を何らかの方法で解決し、補完していく必要があります。
2) D型ドライバーの振動を抑える(その1)
まず、D型ドライバーの振動を抑えるために、634EARSでは「突っ張って力を加える」という方法でドライバーを固定しています。
この方法により、D型ドライバーの振動をかなり抑えることができます。その結果、ブレやロスのない芯のあるしっかりとした音を出すことができます。
この詳細については、以下のブログ記事をご覧ください。そこでは、この方法について詳しく説明しています。
一緒に以下の3つの記事も見てみるとより分かりやすいですよ。
・ダイナミック型ドライバーの振動について(その3)
・ダイナミック型ドライバーの振動について(その2)
・ダイナミック型ドライバーの振動について(その1)
3) D型ドライバーの振動を抑える(その2)
先ほどの「突っ張って力を加えるドライバーの固定方法」により振動をかなり抑えることができました。しかし、チタニウムのような振動抑制に向かない素材ではまだ十分とは言えません。
特にチタニウムやアルミニウムなどのように振動をロスなく伝えやすい素材ではしっかりと振動を抑えつつも低音をしっかりと再生することが求められます。
そのため、私たちはさまざまな試行錯誤を行いましたが、1つの有効な手段を見つけました。それは「ドライバーの取り付け部分にのみステンレスを使用する方法」です。
ステンレスはチタニウムやアルミニウムとは異なり、振動を抑える性質に優れています。そのため出力音はしっかりとした低音が出ることが多いです。
この利点を活かし、筐体ベースはチタニウムで作り、ドライバーが取り付けられる部分だけにステンレスを使用することで、ドライバーの振動をしっかりと抑え、そこから出た音(振動)は内部損失の少ないチタニウムによって減衰を最小限に抑えられ、速やかに伝えることが可能です。
具体的なイメージとしては、以下の図のように、ドライバーが取り付けられる表面(水色部分)と側面(緑色部分)にのみステンレスを使用します。
実際のテストでは、ステンレスの特徴である低音の力強さと、チタニウムの美しい音色と高域が組み合わさる良い結果が得られています。
このまま採用するかどうかはまだわかりませんが、さらにテストを進めてから、「突っ張って力を加えるドライバーの固定方法」と「ドライバー取付部にのみステンレスを使用する方法」という2つの手法を組み合わせて、チタニウムの弱点を補うことを考えています。
あくまでベースは音響性質に優れたチタニウムだが、振動を抑える必要がある部分だけに振動抑制に優れたステンレスを使い、お互いの素材のメリットを組み合わせて弱点を補ってよりよい音を目指すという方法です。
次はチタニウムの加工の難しさや高コストについて3Dプリントと切削のどちらがよいのか?などについて少し切り込んでみたいと思います。