ステンレスの黒染め(Blackening of stainless steel)

今回は9iNEのステンレス筐体に施されている黒染め「玄」について詳しく解説します。

1) ステンレス黒染め「玄」
2) ステンレス黒染めのメリットと特長
3) 実際に黒染めされた筐体でイヤホンを作ってみての感想

1) ステンレス黒染め「玄」

ステンレス筐体に施している黒染めは、株式会社テ―エムが50年以上培ってきた鉄の黒染め技術を応用させ、装飾性を持たせた開発した『玄』という技術であり、新潟三条の鍛冶屋技術が育てた美しい技のブランドです。塗装ではなく黒色酸化被膜、いわゆる「黒錆」を形成して着色する方法であり、塗装にはないメリットや味わいがあります。

634EARSでは9iNEの筐体を形状が似ているMIROAKとパッとみてわかる差をつけたかったことから開発当初よりステンレスの着色を考えており、電着塗装やメッキ塗装などをはじめいろいろとテストしましたが、最終的に音を含めた様々なメリットと特長から634EARSらしさもあると考え採用いたしました。

2) ステンレス黒染めのメリットと特長

①経年変化を楽しめる。

「玄」は金属なのにまるでデニムのように色落ちの風合いを楽しめます。エッジ部分などは特に繰り返しの摩擦などによっていい感じに下地がでてアンティーク加工のような風合いになります。これは木材の経年変化などもある634EARSのイヤホンとしてはとても方向性として合っていると感じました。

②素材の質感を活かせる。

「玄」は染色技術なので塗装などと違い金属の良さ金属ならではの質感を保つことができます。塗装では表面の質感は最終塗装されたものの質感となりますが、この「玄」はステンレスの金属の質感がそのまま残ります。せっかくの金属筐体ですからステンレスの質感が残るのはうれしいことですね。

③寸法精度が変わらない。

皮膜が1~3μと非常に薄く、表面から内方向に化成するため寸法変化がほとんどありません。これはイヤホンのように精密に設計するものとしてはとても良いことです。実際にメッキ塗装では全体に少し厚みがでてバックプレートの直径などに影響がありました。また僅かなことですがメッキ塗装した場合の音にも微妙に変化が感じられましたが、黒染めではそれがありませんでした。

④人体に無害で環境にやさしい。

耳に装着するものですから人体に無害というのはとても安心できます。またステンレス黒染めとして億知られる方法や薬剤は安全性に問題があるものもありますが、この黒染め「玄」は人体にも影響がなく口に含んでも安全だそうで、処理液も禁止されている成分は一切使われていない(RoHSにも対応しています)ため環境にもとてもやさしい処理とのことです。

3) 実際に黒染めされた筐体でイヤホンを作ってみての感想

実際に9iNEにステンレスの黒染めを施しイヤホンとして完成したものを手にとると金属の質感がそのまま残ることがわかります。またその金属の質感と木材や他の金属との組み合わせがとても美しいです。
ノズルの先端とリアのバックプレート部分の断面はあえて最初から黒染めを落としたシルバーの下地の部分を見せることでステンレスらしさをより強調しています。

このイヤホンは素材としてステンレスであることは絶対条件の中で作りました。アルミニウムやチタニウムや真鍮ではこの音は出せなかったからです。それでいて前作のMIROAKと同じような見た目にならないように差別化したかったのでとても良い技術と出会ったと思っています。

バックプレートの真鍮や銅はMIROAKやLOAK-TS,TB,TCに引き続きモメンタムファクトリー・Oriiの金属着色の技術を採用しており、今回のこのステンレスの黒染め技術と合わせるとまた独特の風合いと個性がとてもカッコいいです。

634EARSは一部ですが海外展開もしていますので、ほんの微力でしかありませんがこういった日本の伝統から根付き進化してきた技術を積極的に使って海外の人にも知ってもらいたいなという思いもあります。

なかなか色落する風合いの良さや黒錆びや緑青など錆びを利用した着色技術などを言葉にして知ってもらうのはとても難しいですが、634EARSの製品を通して少しずつでも伝えられたらいいなと思っております。

関連記事