TENORA

TENORAは旧モデル9INEの後継機です。筐体形状の変更と素材の変更、ドライバ―のチューニングの変更を経て新しいモデルとなりました。こちらのブログではTENORAの詳細や他モデルとの音の比較、リア筐体バックプレートの素材について解説したいと思います。ご注文や基本情報は以下の製品ページをご覧ください。

筐体)

旧9iNEから大きく変更されたのは筐体の形状と素材です。

フロント筐体:アルミニウム(セミマットブラックのアルマイト処理)、一部ステンレス。
ボディ筐体: PLA樹脂 (3Dプリント)、一部ステンレス。
リア筐体:木材各種、ステンレス、真鍮、銅(真鍮と銅はモメンタムファクトリー・Oriiの着色カラーあり)

フロント筐体にはアルミを採用し、セミマットブラックのアルマイト処理を施しています。

アルミは密度が低いため、密度と弾性率から求められる音の伝搬速度(弾性率/密度)が高いのが特徴です。比重が軽く音の伝搬速度が高いので「振動をロスなく伝える」というフロント筐体に求められる条件の1つを満たしてはいますが、そのぶん振動の内部減衰率が低く振動をあまり吸収しないのでD型ドライバ―の振動を抑える必要のあるドライバ―取付部分にはあまり向いていないということにもなります。

しかし、そのアルミの弱点を補強するためにドライバ―の設置部分にステンレスを配置し振動を吸収する役割を持たせています。これはチタン筐体のLOAK2に採用している構造です。下の画像の青い部分にステンレスを組み込んであります。ドライバーの側面とアルミ筐体の間には反発素材があり、その反発力でドライバーに常に力が加わるように固定し、ドライバーの振動がフロント筐体になるべく伝わりにくい設計にしています。これによりブレのない明確な音とステンレス筐体のようなしっかりとした低音もある程度確保できるようになります。

また、旧9iNEと同様にダイナミック型ドライバーを限りなく耳に近い位置に設置できるフロント筐体設計になっており、MIROAK-IIやLOAK2と比較するとTENORAはドライバーの設置位置から音の出口までの距離がかなり短いです。これは小型ドライバ―の利点であり、距離による音の減衰を最小限に抑えてくれます。

ボディハウジングの形状はMIROAK-II JAPAN Limitedモデルのボディと同じ設計になりますが、素材を変更し、ABS樹脂ではなくPLA樹脂を採用しています。PLAはABSにくらべて硬さがありますが剛性は劣ります。これは言い方を変えれば変形しにくいということになります。

TENORAのドライバーはMIROAK-IIのように硬い素材ではないため、ドライバ―背面の素材が柔らかすぎると中低音のボリュームが出すぎてしまい中高域のクリアさや音の輪郭の明確さが失われます。なので、リアボディには同じ樹脂でも変形しにくく作りやすいPLA樹脂を選択しています。そして強度を補強するためにリアボディのバックプレート固定部分にはステンレスのリングを採用しました。

音について)

TENORAのベースとなる音は旧9iNEと同様に、小型ドライバ―ならではの繊細で細やかな音、すこし太めの低域にスリムな中高域という特徴がありますが、旧9iNEと大きく違う点は、中高域の響きが増えたことと、閉鎖的で少し暗さを感じた旧9iNEのサウンドステージが改善され、上方向への開放感や中高域の音の明るさや軽やかさが出たことだと思います。それによって低中高のバランスもよくなり聴きやすいサウンドになったかと思います。

MIROAK-IIとの比較)

筐体の形状としてはTENORAとMIROAK-IIは似ていますが、メインエンジンとなるダイナミック型ドライバーのサイズや振動板の素材が異なるため、音の性質には大きな違いがあります。

TENORAは小型ドライバーを採用しているため、MIROAK-IIに比べて音の強弱や迫力、スケール感、ダイナミクスといった面では控えめです。その代わりに、聴きやすさや疲れにくさが際立ち、MIROAK-IIほど主張が強すぎる音が少ない印象です。

もしMIROAK-IIの音を「ダイナミックでエネルギッシュな男性的な音」と表現するなら、TENORAは「穏やかで美しく、柔らかさや心地よさを感じる女性的な音」と言えるでしょう。特に女性ボーカルは、TENORAで聴くとより滑らかで心地よい印象を受けます。

バックプレート素材)

リア筐体の一部であるバックプレートは、これまでのモデルと同様に木材または金属からお選びいただけます。木材は数十種類の中から選ぶことができ、木材の密度、硬さ、油分などの要素によって音質には微妙な変化が生じます。例えば、選ぶ木材によって音がよりクリアに感じられたり、温かみが増したり、低音や全体の音圧がわずかに強調される場合があります。ただし、これらの変化はTENORAの基本的な音質を大きく変えるものではなく、全体の10~30%程度の影響に留まります。

一方で、硬い木材と柔らかい木材を比較すると、音の傾向に若干の違いが生まれることがあります。そのため、お客様ご自身の音の好みに合った木材や金属を選び、理想のサウンドをカスタマイズする楽しさを体験いただけます。この選択プロセスも、TENORAならではの特別な魅力のひとつです。

デモ機として、スネークウッド、ホンジュラスローズウッド、イタヤカエデ(スポルテッド)の3種類を制作しました。また、私自身の個人用としてエゾヤマザクラを使用したTENORAも制作し、硬さの異なる4つの木材を使ったデモ機を揃えています。

これら4つのTENORAを比較すると、それぞれの木材の特性が音に微妙な違いをもたらしています。スネークウッドは最もスリムでシャープな音が特徴で、ホンジュラスローズウッドはスネークウッドに比べてわずかに暖かく、太く、マイルドな音に仕上がっています。イタヤカエデはさらに柔らかくソフトな音色が特徴です。一方、エゾヤマザクラはこの中で最も低音がリッチでウォームな音を生み出します。

音の印象としては、スネークウッド、ホンジュラスローズウッド、イタヤカエデ、エゾヤマザクラの順に、シャープさが和らぎ、音の温かみが増していくように感じられます。それぞれの違いは微妙ですが、聞き比べることで素材による音の変化を楽しめる仕上がりとなっています。

TENORAの音の特性やグラフは、634EARSの木材の中でも標準的な硬さや密度を持つホンジュラスローズウッドを基準に設計されています。そのため、木材を選ぶ際には、この基準となる音をどの方向にシフトしたいのかを考えると、より理想に近い音に仕上げることができます。

一方、金属バックプレートを選ぶ場合については、バックプレートの内側に高反発素材を組み込んでいるため、通常の金属の硬さとは異なり、低音のボリュームがしっかりと感じられる調整がされています。これにより、金属特有のクリアな音色を保ちながらも、より豊かな低音を楽しむことができます。

関連記事