(2)筐体素材について考えてみる。「音の発生源とそれぞれの役割」(The “634EARS for the Best Earphones” Project.)

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少し忙しくて間があいてしまいましたが634EARS最高のイヤホンを作るプロジェクトを進めていきましょう。

このプロジェクトでは、振動板の素材や筐体の素材、設計やチューニングなど深い話が多くなっていくと思いますが、とくに素材の話は多くなってくると思います。

なので、まずはその理解を確実なものにするために前提でもある「音の発生源とそれぞれの役割」について今回は解説します。

地味ですがかなり大切なことで、ここを曖昧なまま素材と音の関係を考えていくとまったく的のズレたことになり得ますし、実際にそのようなことが多いと感じています。

逆にここを正確に理解しておくと今後の素材選びや設計やドライバーや木材の選定までより理解が深まると思います。

ちょっと長くなりますが、お時間のある時に読んでみてください。

今回は当たり前の話ですが保存版ともいえる内容です!

1) 素材の話題になるとありがちなこと。
2) 音はD型ドライバーから出ている。
3) D型ドライバーを境に前と後ろの空間に分かれる。
4) 前と後は違う役割をもつ。
5) 楽器で考えてみよう。
6) イヤホンの場合は?
7) リア筐体の「音」は聞こえない。
8) 前後の区別なく素材の特性を語ることは出来ない。

※この話はダイナミック型ドライバーのイヤホンが前提です。

1) 素材の話題になるとありがちなこと

素材の話になると「金属は○○な音で…」「木材はウォームでソフトで…」「樹脂は…」「チタンは…」「真鍮は…」などなどの話をよく耳にしますが、絶対に間違ってはならないのは「その素材がイヤホンのどの部分に使われるか?」です。

これがわからずして「金属はシャープ」「木材はソフト」などは間違った勘違いのなかでしか語れません。

しかし実際はその「素材」がどこに使われているかが無視されていることがとても多いです。下手すれば筐体の素材だけではなく振動板の素材までもが一緒にひとくくりにされて解説されていることもあると感じています。

2) 音はドライバーから出ている。

最も重要なことは音そのものはD型ドライバーから発せられているということです。もっと厳密にいえばD型ドライバーの振動板が動いて音を発しています。

音がドライバ―から出てるって当然ことでしょ!

そう思うかもしれんが実は超重要なことなんじゃ。

イヤホンのダイナミック型ドライバーを単体で接続して動かすと音が出るのはドライバーの前からだけです。振動板が動くので厳密には前にも後ろにも振動を発しているのですが、実際に「音」として私たちが聴いているのは振動板が向いている方向から出ている音です。

カナル型イヤホンの場合はその音が筐体のノズルの先端からでて私たちが聴いてるわけです。

3) D型ドライバーを境に前と後ろの空間に分かれる。

では、音がドライバーから前方向に出ていることを分かったうえで筐体の役割をみてみましょう。

D型ドライバーの筐体はイヤホンによっていくつかの部位に分かれていますが、大きく分けると「ドライバーの前か後ろか」の2つに区分できます。

「前」と「後ろ」の空間は基本的にはD型ドライバーを境に隔てられています。

前と後ろの境目のない1ピース構造のイヤホンもありますよね?

たしかにそうじゃが部品として分かれていなくても内部はD型ドライバーを境に前と後ろの空間に分かれていることになる。

634EARSの場合、
例えばLOAKはダイナミック型ドライバーの前がステンレスかチタン、後ろがステンレスと木材という感じです。
MIROAKの場合は金属部分は繋がった1ピース形状ですがドライバーの前がアルミ、後ろがアルミと木材(または各種金属)という感じに分かれています。

ドライバー内の管で厳密には通じて居たり、ドライバー前から後ろへ通じる通り道がある場合もありますし、そもそも振動板が僅かに透過する素材の場合もあるので完全にとは言えませんがおおよそ「別の空間」「別の部屋」となっているわけです。


4) 前と後は違う役割をもつ。

では、D型ドライバーの前と後ろで何が違うのでしょうか?

《前》
ドライバーの前は「D型ドライバーから出た音が反響したりしながらノズル先端から音として出ます」。そのための空間であり音導です。

ここでのポイントは「D型ドライバーから出た(発せられた)音が」です。
「出た音」が筐体の形状や素材や厚みによって変化しノズルの先端から音となって出てきます。もっとわかりやすく言うと「出た後(発せられた)の音が」と言ってもいいでしょう。

「振動板から出た音(出た後の音)」というのがポイントじゃ。

《後》
ドライバーの後ろは「D型ドライバーの動きが後ろ側の筐体の素材や厚みや形状や大きさによって変わります(影響を受けます)」。

ここでのポイントは「D型ドライバーの動きが変わる(影響を受ける)」です。

ドライバーの前はD型ドライバ―から「出た後の音が」変化するのに対して、ドライバーの後ろはD型ドライバーの動きにに影響を与えます。それはつまりD型ドライバーから「出る音」に影響を与えています。

「振動板の動き(出る音」に影響するというのがポイント。

そして私たちが聴いているのはD型ドライバーから「出た音(出た後の音)」です。

このことを絶対に覚えておいてください。とても重要なことです。

5) 楽器に例えてみよう。

イヤホンやヘッドホンなどオーディオ機器を語るときに「楽器」の素材なども参考とされることが多いです。

しかし、楽器も音を発する仕組みがそれぞれ全然違うので、参考にするものを間違えてしまうと全く的外れなものとなってしまいます。

楽器にもいろんなものがありますしそれぞれ役割が違いますから、簡単に例をあげて大きく分類してみましょう。

《音(音響)を発生する源となる振動体》

これは名前の通り音の源となる振動を発するもののことです。
例えば、シンバルであったり、ドラムのヘッド、トライアングル、木琴、ギターやバイオリンの弦など。これらが振動しないことには音は発生しません。

《振動体を振動させるためのもの》

振動体も何もしなければ振動はしないので、それらを振動させるためのものが必要です。
例えば、ドラムや木琴など打つためのバチ、バイオリンの弦を擦る弓やギターのピックや爪、唇や手のひらなど楽器によっては直接体の一部を使うこともありますし、厳密にはこれらのモノを使う人や人の手や足も含まれます。

《振動を音として増幅・放射する部位》

振動体が発した振動を音として空気中に放射するための部位です。
例えば、ピアノの響板やギターのボディなど。

それ以外にも、《振動体の振動を伝え拡大するため》のピアノの駒やギターのブリッジであったり、《振動体を支えるため》の支持部分であったり色々あります。

バイオリンやギターやピアノやドラムなど様々な楽器はそれらを適材適所に配置して1つの楽器になっているわけです。

例えばクラシックギターの発生源は弦であり、弦を動かすのにはピックや手の弾きがあり、弦の振動はブリッジからボディへ伝わり、ボディで増幅され音として聞こえています。

それぞれの部位には役割があり素材として求められるものも当然違います。

6) イヤホンの場合は?

では、それをイヤホンに当てはめた場合はどうでしょうか?

D型ドライバーの場合、音の発生源はドライバーであり振動板です。
それを振動させるために電気信号がありコイルであったりマグネットがありますが、発生源はシンプルに振動板と考えて良いと思います。

発生源が動くのは電気信号やそこから生まれる磁力などによるものですが、動き具合(度合)にはリア筐体の素材や形状や厚みやその空間などが影響します。

その音(振動)がドライバーから放射されドライバーの前にある筐体内部で反射したりして影響をうけながらノズルの先端から音として出ています。

これらそれぞれの部位は楽器と同じように役割も全然違いますし、もちろん求められるものも違います。

音の発生源である振動板」「それを伝達し放射するフロント筐体」「発生源の音に影響を与えるリア筐体」はそれぞれ役割が違えば求められる素材も違うということじゃ。

発振する振動板は硬くかつ柔軟で内部損失がすくないものが良かったりもしますし、筐体の部位によってはD型ドライバ―からの振動を抑えなければならないところもあれば振動を損失なく伝えなければならないところもあります。

リア筐体に至ってはドライバーのチューニングとも関係していて、より硬く重いものが良い場合もあれば、軽く硬い場合のほうが良いも場合もあるし、弾性がありつつ軽い場合がよいこともあります。

しかし、実際には素材がどの部位にどんな役割で使われているかが曖昧なまま「金属=〇〇な音」「木材=〇〇な音」と思われていることが多いと感じるのぉ。

先ほどの楽器のクラシックギターに例えるなら、振動板(ドライバ―)は弦ですし、フロント筐体はブリッジやボディのような役割です。リア筐体はあえて言うならピックや爪を含めたそられで弾く人間または人間の手や腕と言えるでしょうか。

それぞれ違う役割を担うもので求められるものも違うのに「金属=〇〇な音」「木材=〇〇な音」であったり「真鍮=〇〇な音」「ローズウッド=〇〇な音」みたいに語ることも難しいということだね。

7) リア筐体の「音」は聞こえない。

ここまでの話から、リア筐体はドライバーの「振動板の動き」に影響し、その振動板から「出る音」に影響します(変化を与えます)。

つまりリア筐体内で何か音が発せられていてそれが直接的にどこかから聞こえているわけではありません。

厳密にいえば振動板素材が完全に前後を遮断する素材ではないのでわずかに後ろ空間の音が前側にくることがないことはないですが、基本的にはリア筐体方向に仮に音が出たとしてもそれはノズルの先端から聞こえません。

リア筐体はD型ドライバーの振動板に「影響を与える」のであって、リア筐体で何か音が鳴っていてそれが聞こえるわけではないのです。

ここは勘違いしている人もすごく多いかもね。

金属を叩けば「カーン!」と硬質でクールな高い音が響いたり、木材だと少しソフトで温かみのある音が「カン」「トン」となり、樹脂だと「トン」「ポスッ」「バスッ」と鳴るようなよく思い描かれるイメージがありますが、イヤホンの場合それは「振動板の素材」の話になります。リア筐体ではありません。

ですが、実際はこのような素材のイメージを筐体や振動板の素材すべてに当てはめて語られることがとても多いです。これは全く違いますから注意しなければなりません。

音を発しているのはD型ドライバーの振動板であり、それがドライバーの前にあるフロント筐体を音導としてノズルの先端から音が聞こえています。

とても重要なポイント! リア筐体の「音」は聞こえない。

実際に634EARSではリア筐体の木材や金属を選ぶことができますが、先ほどの素材を叩いたときのようなイメージで質問が来ることがとても多いです。リア筐体の「音」は聞こえませんから、リア筐体で考慮すべきは振動板をどう動かすかです。

8) 前後の区別なく素材の特性を語ることは出来ない。

振動板、フロント筐体(ノズルやカップやドライバー設置部分と更に細かく分類できる)、リア筐体(シェル部分や背面部分と更に分類できる)はそれぞれ役割が違いますし、求められるものも違います。

これらを叩いたときのイメージであったり、特定の楽器だけの素材の音のイメージで語るのはまったくズレた話であり、そのまま間違って認識すると自分が求める音とは違ったものにたどり着くことになってしまいます。

どうして、このようなイメージが地味についてしまったのだろう?

おそらくだが、1つずつ順を追って理解しなければわからないので、キャッチコピーや謳い文句、短時間での解説などで正確に伝えるのが難しいからもしれんのぉ。

なので、製品では「結果」だけを素材の音として伝えたほうが楽で、それがいろいろ積み重なるうちにイメージで変な誤解を与えてしまったのではないかと思います。

音の発生源はD型ドライバーの振動板です。そこからフロント筐体を通じて私たちは音を聴いています。シンプルなことですがこのことは大切なので覚えておいて下さい。

今回のことが理解できたらここから先に解説することは素材ごとの特性などばかりですからとても分かりやすいです。

この後、フロント、リア、振動板、さらには細かい部分までベストな素材を選択しながら634EARS最高のイヤホンを作っていく過程を共有していきますのでコンテンツとしてゆっくりお楽しみいただければと思います。

【まとめ】

・音はD型ドライバーの振動板から出ている。
・イヤホンの筐体はD型ドライバーを境に前と後ろの空間に分かれそれぞれ違う役割を持つ。
・リア筐体の「音」は聞こえない。
・音の発生源はD型ドライバーの振動板。そこからフロント筐体を通じて私たちはノズルの先端から出る音を聴いている。

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