ダイナミック型ドライバーが生じる「振動」について。4回目。
今回は「ダイナミック型ドライバーが生じる振動をどう抑えるか?」についての続きです。今回は可なり深堀した話になるので少し難しいかもしれません。
制振性のあるものを貼り付けることではあまり効果がないというのが前回の話で、じゃあどうするのか?ということで「突っ張って力を加える」のが現時点で実用的で効果もあるというのが今回の話になります。
「突っ張って力を加える」というのは言葉では少し難しいですが、日本の場合は地震などで家具を固定する突っ張り棒のようなものを思い浮かべてもらうと良いかと思います。
耐震用のゴム素材なども効果はもちろんありますが、上下から抑えて固定したほうが確実に振動は抑えられます。
これをD型ドライバ―でイメージすると以下のイラストのような感じです。
振動しているものを力で抑え込むというのが近い表現かもしれませんね。
震えている物や振動しているものを少し力を加えて押さえつけるとその振動は弱まります。叩いたシンバルやドラムを手で押さえて響きを止めるのもこれに近いことだと思います。
洗濯機が振動しているとき手でしっかりと押さえつけてみてください。振動が弱まると思います。これと同じことをイヤホンでやるのが突っ張って力を加える固定方法です。
ただし、注意しなければならないのは完全にガチガチに完全接着して固定してしまうと結局は固定したものまで一緒に振動してしまうという点です。(よほど振動するものに重量がある場合や、固定するものの重量や質量が振動するものよりも大きい場合はまた少し違いますが)
突っ張って力を加えることで振動を押さえつけるけど、その振動を吸収せずに完全固定してしまうと意味がないというこれまた難しいことが要求されるのですが、ここで役に立つのが前回の話で登場した制振素材です。
実際に634EARSのイヤホンの固定方法を例に解説してみましょう。
634EARSで使うのは反発して元に戻るタイプの制振材を使います。密度が高く弾力のある柔軟素材です。
指でつまんでもすぐ元に戻ろうとするような反発性のあるスポンジなどをイメージするとわかりやすいかもしれません。
これを貼り付けてるだけではほとんど何の意味もありません。これを使って固定しつつ振動を吸収する必要があるわけです。
実際にはD型ドライバ―と筐体の間となる部分にこの反発タイプの制振材を圧縮した状態で取り付けます。
圧縮した状態というのは上のイラストでいうところの指でつまんでいる状態です。
この状態でドライバーを組み込み位置に取り付けると、この制振材は反発性があるので元の大きさに戻ろうとします。その元に戻る力でドライバ―から筐体側へ「突っ張って力を加える」ことができます。
ドライバーと筐体には常に双方に突っ張る力が加わります。
またここで使用する制振材は圧縮して反発する(元に戻る)力もかなり強いので固定力もかなり強いうえに振動を吸収してくれるという2つの役割を見事に果たしてくれます。
難しいのは素材の反発が強すぎて圧縮しすぎた状態だとかなりがっちり固定されて結局筐体に振動がすこし伝わってしまうことになり、逆に反発性が弱いと突っ張る力は弱くなりドライバ―そのものの振動を抑えることができなくなります。
この圧縮性や反発性、振動吸収率などの具合がとても難しいのですが、それは色んな種類や厚みや設計をテストしながらベストなものを組み込んでいくという感じです。
この仕組みの少し面倒なところは採用するD型ドライバーの大きさ(直径)にこの制振材の厚みも考慮に入れて筐体を設計せねばならず、設計後のテストで実際に組み込んで制振具合をチェックして寸法を変えたりしなければならないため通常より2段階くらい開発の段取りが増えてしまうところです。
少し面倒ですが634EARSではこの制振構造を組み込むことを前提にして筐体を作るので、その筐体には設計時に考えられた1つの大きさのドライバ―しか組み込むことができず他のドライバーに筐体を流用できないですが、それくらいこのドライバ―の振動を抑えて取り付けるというのは大切だということです。
結構マニアックな話になってしまいましたが、D型ドライバーの振動を抑える1つの手段として634EARSの考える取り組みをご紹介しました。