リア筐体の木材(素材)選び-その1

これまで何度か解説しましたが改めてリア筐体のバックプレートとなる木材や金属の選択による音の違いについて説明しておこうと思います。

バックプレートの素材はとても多彩です。また木材は個体差があります。なので1つ1つの木材について個別に解説するよりも、その素材の硬さや密度の度合によって音がどのように変わるのかを知ったほうがイメージしやすいと思っています。

そのために、まず最初に最低限の知識としてリア筐体がどのような役割を果たしているか?について知ることが大切です。

リア筐体の役割

イヤホンの筐体はダイナミック型ドライバーを境にして前と後ろに分かれます。
今回解説するのはドライバ―の後ろ側のリア筐体についてです。

リア筐体内部はその筐体内部の空気が振動板を動かすためのバネのような役割を果たし、振動板の動きによってリア筐体内部の空気を圧縮・反発することで、振動板の動きの度合に変化を与えています。

私はリア筐体をよくドラムや太鼓などの楽器に例えます。振動板はヘッド(皮)でありドラムシェル(ボディ)はリア筐体の側壁であり、底面はバックプレートに例えられます。

では、そのリア筐体の素材が「硬い」「柔らかい」「密度が高い」「密度が低い」場合、振動板にどのような動きの変化があるでしょうか?

硬い場合)

リア筐体素材が硬い場合、振動板が動く際にリア筐体内部の空気の圧によって筐体素材が歪まない(変形しない)ので、空気は速く小さく反発します。

そのため、振動板は速く細かく動きます。このような振動板の動きはタイトで解像度の高いクリアな音を出しやすくなります。また音の立ち上がりが速くキレの良い音となり、輪郭がはっきりした正確な音を出しやすいです。

柔らかい場合)

リア筐体素材が柔らかい場合、振動板が動く際にリア筐体内部の空気の圧によって筐体素材が歪みやすい(変形しやすい)ので、空気はゆっくり大きく反発します。

そのため、振動板はゆっくり大きく動きます。このような振動板の動きは音が太くなりやすく、特に中低域にリッチさを出してくれます。 しかし、硬い素材に比べて音の輪郭が太くなることで少しフォーカスが甘くなるような印象があります。

密度が高い場合)

リア筐体素材の密度が高い場合、振動板が動く際のリア筐体内部の空気の圧を大きく反発します。リア筐体内部の空気のバネが強くなるということです。

そのため振動板は強く大きく動きます。このような振動板の動きは音圧を増加させ迫力のある音を得やすくなります。 そのぶんアタックやピークも出やすくなる傾向にあります。

密度が低い場合)

リア筐体内部の密度が低い場合、振動板が動く際のリア筐体内部の空気の圧が素材に一部入射する(吸収の意味に近い)ことで、空気の反発は小さくなります。リア筐体内部の空気のバネが弱くなるということです。

そのため振動板は優しく小さく動きます。このような振動板の動きは柔らかく優しい音を得やすいです。そのぶん音圧は抑制され特に低音は控えめとなる傾向にあります。

木材の硬さと密度比較リスト)

これらを踏まえた上で634EARSでよく使う木材のリストを見てみましょう。

10段階で硬さと密度を数値化しています。
※現時点での数値のため今後変わることもあります。

これまでは「比重」という基準を使っていましたが、実際には密度とは違うため今は「密度」という基準を使っています。これらの数値は実際に私自身が木材をカットして削ってみた感触などから数値化したものです。また、「Dry」と「Oil」という項目は、特に乾燥している木材や油分が多い木材について記載しています。

A-Eは硬さを基準に似たようなものをグループ化しています。
Fは特殊な木材(素材)です。

実際にこの表をみれば硬さと密度の度合から、他の木材と比べてどんな音になるのか想像し易いと思います。

注意点)

リストによって木材の硬さや密度が数値化され音のイメージがつかみやすくなりましたが、注意すべき点があります。

例えば、硬さが10のスネークウッドを使った場合、必ずしも硬い木材の特徴的な音(高解像度、クリア、シャープ、タイト」になるわけではなく、あくまで硬さが7-9のココボロなどと比較するとそれらよりも硬い木材の特徴的な音になるということです。

つまり木材単体ではその音の傾向はベースとなるイヤホンや人それぞれ感じ方が違うので明確にはわからず、他の木材と比較してどんな音になるか?という目安にしか使えないということです。

なので、「この木材を使うとどんな音になりますか?」という質問に答えることはできません。 「この木材を〇〇というイヤホンに使った場合、インディアンローズウッドと比べてどんな音になりますか?」という質問には答えることができるというわけです。

今回は最も基本的なことでしたので、次回は今回のことをベースにして、もう少し踏み込んで解説してみたいと思います。

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